五番町夕霧楼:水上勉著のレビューです。
蝉の一生を見ているような淡く儚い小説
若く儚く散った幸薄の女性を描いた作品です。
貧しい家庭を養うために、京の遊郭の娼妓になった夕子。
西陣の織元の大旦那に早々に水揚げさされるが、実は故郷で知り合った学生僧と心を寄せ合っている。
大旦那がいるにもかかわらず、夕子は自ら他の客取りを願い出る。
それは学生僧と会うためでもあったわけで...。
夕子に夢中になっていた大旦那は当然面白くない。
大旦那は鳳閣寺の住職に彼の廓通いを密告する。
やがて夕子は肺病を患い入院することに。
一方、学生僧は住職と衝突しとんでもないことを起こしてしまう。
その後の展開は幕が一気に下りたような淡く儚いものであった。
何というか、蝉の一生を見ているような気分になる。
こんなにも猛ダッシュで生き抜くということが、恐らくこの時代にはたくさんあったのだろうなぁと思うと、胸がツンツンと痛む。
悲しい話ではあったわけだけど、夕霧楼のおかみさん、おねえさんたちが、みんな心優しい人々であったことに救われる。いわゆる廓内での女同士のいじめ的な雰囲気は珍しくない。
ということで、
同著の「金閣炎上」、三島由紀夫の「金閣寺」を再読したくなった次第です。