血を売る男:余華著のレビューです。
血がどんどん湧いてつくられるように中国人の逞しさが漲る
━最も過激な中国人作家による涙と笑いの一代記。
という謳い文句。タイトル、装丁どこをとってもなんとも表現し難い雰囲気が漂う。
文革時代の中国を舞台にした家族の物語。
とにかく最初から最後までどこを切り取っても混沌としていたし、人々の雑然とした会話が飛び交う。たまにホロリとさせられる場面があったりする。気持ちを振り回されながらも全体的には面白く読ませてもらいました。
一家のあるじであるサンクアンは貧しい村に生まれ、結婚をし、3人の息子をもつ父親。生活は一向に楽になることはなく、苦しくなるばかり。加えて長男、実は妻の不貞で出来た子供だということが判明し、夫婦はてんやわんや状態に陥る。なんの罪もない長男につらく当たる父。親子の話は、長男が不憫でならなかったが、やがて話は感動的なものに変化する。
さて、表題の「血を売る」だ。
サンクアンは家族がピンチに陥るごとに血を売りに行く。400mlの血を売ると結構なお金になるということで、彼はいそいそと出かけてゆく。もちろん健康な体あっての血液ということだが、血を抜く事前に水を大量に飲んだりし、通常の献血とはえらく違いがありそうだ。時に死に至るほど体を衰弱させてしまう危険な行為と言う。
村の男たちは血を売った帰りに豚レバー炒めと紹興酒一合を飲む。
そのシーンが唯一彼らの至福の時のように映る。
家族の生活を守るためと言っても、やはり血を売る行為はご法度もの。
「血を売るのはご先祖様を売ることだ。」と妻は夫に言う。
果たしてこういう状況は、どのくらいの期間中国にあったのでしょうか?
またどのくらいの人々が「血を売る」ということを行っていたのでしょうか?
余華さんの別の小説もあるようですので、そのあたり、機会があたらまた読んでみたいと思います。
貧しい、飢餓、家族問題、社会問題、すべて陰鬱な雰囲気のものばかりではありますが、この小説は不思議と活力が漲っている。
血がどんどん湧いてつくられるように中国人の強さの源からも、何か特別な力が次々と湧き出している感じがする小説でした。